記憶の水底

5月9日(水)~11日(金)

【9日(水)】
7時に目が覚める。
準備をして、着替えて、8時前に出発。
8時過ぎの新幹線に乗って、一度の乗り継ぎを行いつつ、故郷へと向かった。

突発的に休ませてもらったため、「休み」という形ではありつつもいつでも仕事の応対はできるよう、会社のPCを持って行動する。もちろん新幹線内でも定期的にメールチェックなどをしていたが、前日までの仕事の流れで、社内の人間から心ない言葉が綴られたメールが送られてきており、少なからず失望を覚えたりなどをしていた。こういう時に――というのも、100%こちらの事情だから言い訳じみてはいるが――余計に心をかき乱すような働きかけを周囲はして来ないで欲しい。今後その人とは一定の精神的距離を置く。

昼過ぎに到着し、駅で、こちらも急遽やってきてくれた従妹と落ち合い、電車、バスを乗り継いで実家へ。
玄関で既に、強い線香の匂いを嗅ぎとる。久々の感覚。
荷物も置かずに、そのまま祖母の部屋へ行くと、そこには既に冷たくなった、
――しかし布団と毛布に包まれ、一見するとただ穏やかに寝ているだけにしか見えない、愛しい友人の姿があった。
軽く挨拶をし、頭を撫でてやる。死後硬直、という言葉を久々に掌で思い出す。数年前に祖父が亡くなった時に触れて以来の感覚だった。

家では祖母が迎え入れてくれた。一番に世話をしていたのは祖母だったので、かなりダメージは受けているようだったが、表面上はいつも通りに振舞ってくれていた。祖母や従妹とお犬様の思い出をしばし語ったのち、昼食を頂く。
それから私は車を借り、今一度新幹線駅へ行き、昼過ぎにやってきた妹(火憐ちゃん)を迎え入れる。
再び家に帰ってからはまた皆と思い出語りをしたり、祖母の外出に少し付き合ったり、私の提案で彼に最後の手紙を書いたりした。
ここまで涙は極力流さないようにと努めていたが、やはり一人で彼との日々を思い出しながら別れの手紙を書くときは、流石に我慢ができなかった。
便箋一枚にこれまでの想いをしたため、皆の手紙とまとめて、彼と一緒に荼毘に付してもらうよう祖母にお願いをした。

夕方、再三駅へ行って一足先に帰ってしまうらしい従妹を祖母とともに送り、仕事終わりの父を拾ってまた帰る。
戻ると、同じく仕事が終わった母と留守版を任せていた妹が迎え入れてくれ、ともに早めの夕食を囲んだ。

それから19時、いよいよ私と妹は帰らなければならなくなる。
最期に、部屋で安らかに眠っている彼の名前を強く呼んで――元気だった頃、夜の散歩や夕食の時にはいつもそうしていたように、愛しいその名を叫んで、めいっぱい彼の身体を撫で、握手をしてやった。

そして、「いってらっしゃい」と。

努めて穏やかに声をかけ、祖母に見送られて家を発つのだった。

駅では遅れてやってきた月火ちゃんと一瞬だけ会って言葉を交わしたのち、
父と母、月火ちゃんに見送られ、火憐ちゃんと同じ新幹線で帰る。
出先に戻ってからは、駅から部屋まで久々に歩いて帰った。色々な音楽を聴きながら、ずっと彼との記憶に想いを馳せていた。

次の日は普通にやってきて、普通に仕事には出なければならない。
そして自分は、こういうときに家族や彼のそばにいることができない。
それがどうしようもなく悔しくて、けれどもどうしようも無いまま、何かに身を焦がされるような思いで、眠りに就くのだった。


【10日(木)】
8時に起きる。
諸々の支度を済ませつつ、8時半過ぎに部屋の窓を開ける。
8時45分、遠い故郷で、彼の火葬が行われた。
そちらを向きながら、改めて暫しの別れを告げ、そののち、出社。

前日の勝手をチームの人々に詫びつつ、仕事はいつも通り行っていった。
……が、最近にしてはほとんど仕事が無かった方で、これなら無理ついでにもう一日くらい向こうにいればよかったな……と、軽く後悔をするなどした。

ほぼ定時に帰宅し、月火ちゃんも実家を離れたことを確認しつつ、夜、実家に残っていた母と祖母に電話をする*1
荼毘は滞りなく終わり、遺骨が実家の仏壇に添えられていることや、彼の頭骨の頑丈さに驚いた話などを聞いた。電話口だから多少無理をしていたのかもしれないが、母も祖母も、ひとまずは憔悴しきっている様子もなく、安心する。
安心してしまったせいか、そのまま布団に潜りこみ、かなり早い時間に眠りに就いてしまうのだった。


【11日(金)】
この日あたりから、2日にいっぺんくらいの頻度で彼の夢を視るようになる。
やはりそうそう簡単には割り切れない。当たり前のことではあるが。

この日も特に大きな仕事は無かったものの、一件遅い時間に打合せがあり、そのままずるずると業務時間も長引き、21時前くらいに退勤する。
帰宅後、FGOラジオを聴いたり、Steins;Gate 0多田くんは恋をしないを観たりする。
あとは週末ということ、週の間に部屋を空けていたことなどから、その期間できなかった諸々の作業を行い、27時半頃まで夜更かしをしてしまったのち、外が青白んでいるのをぼんやりと感じつつ、寝た。


     *     *     *


いつも以上に重い空気感の日記が続くが、まあ、仕方のないものは仕方のない。
ということにしておく。

*1:父は火葬を見届けたのち、仕事に赴き、出張に行ったらしい